中古リノベコラム
必ず聞かれる「中古マンションの寿命」について、専門家に聞いてみた
中古でもマンション購入を検討する際、誰でも少なからず気にするのが「マンションの寿命」についてではないでしょうか。一般的に「マンションの寿命は60年くらい」と言われていることも多いですが、「実際のところどのくらい建物がもつのか」と「マンションの寿命に影響を及ぼす事象」を、様々な観点から探っていきます。
マンションの寿命はどうやって決まる?
1.耐震性からみた寿命
地震大国の日本。マンションの寿命を考えるとき、真っ先に思いつくのは「耐震性」ではないでしょうか?建物自体が年月を重ねて朽ちていくよりも前に、地震により倒壊してしまう可能性の方が高いが故、地震に耐えられなかった時=建物の寿命 というイメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。
実際にマンションの耐震性の基準を調べてみると、1981年以前の『旧耐震基準』で建てられたマンションは、1981年以降の『新耐震基準』で建てられたマンションと比べて、コンクリートの性能から鉄筋の量・施工法などが異なっています。一概に『弱い』とは言い切れませんが、新耐震基準の建物に比べると大きな地震に対する耐力が低くなっている傾向にあります。
「旧耐震基準のマンションは、耐震診断を受けて、耐震改修工事を施せばよいのではないか?」とも思えますが、実はそう簡単な話では無いのです。耐震改修工事を施したとしても、新耐震基準と同等の耐震性が確保できるわけではないのです。一定の効果はありますが「あくまでも倒壊などを防ぐ」という意味での補助的な耐震改修になります。ましてや、耐震改修を行うということは、マンションの柱や梁に囲まれた部分に鉄骨の筋交いを増設することになるため、窓から見える景色が変わってしまったり、外部から見た景観・デザイン性の問題から周囲の賛同を得られず、なかなか耐震改修に踏み切りにくいという事情もあるようです。
もちろん、旧耐震基準で建てられたマンションでも、建て方がしっかりしており比較的地震に強いマンションもあると考えられます。ただし、予測しえない大地震が発生したときは、その寿命をまっとうすることになるかもしれません。
2.年月が経つことによる物理的な寿命
耐震性の問題を抜きにして考えると、経年劣化によりマンションの寿命が尽きる可能性もあります。しかし新耐震基準のマンションで、かつ定期的に構造躯体や防水・仕上げ・配管などのメンテナンスを適正に実施しているような「管理が徹底されている建物」であれば、寿命を長くもたせることは不可能ではないと言えるでしょう。
マンションを内見すると不動産屋の担当者から「このマンションは管理もしっかりされていて~…」といった話を耳にすることもあると思いますが、この「管理」とは「建物を長くもたせるための管理」なのです。人間と同じで、同じ築年数のマンションでも、手厚いメンテナンスを施した建物とそうではない建物では、大きな差がつくことはいうまでもありません。
しかし、どれだけ管理をしていても、劣化を完全に止めることは出来ません。年数を重ねるほどにメンテナンス費用が大きくなるのも確かです。維持するために費やしてきたメンテナンス費用と、建て替える場合の費用が、限りなく近づいてくることになります。メンテナンスに対する居住者の負担が大きくなるほど、建替えのために取り壊される可能性も高まります。
3.経済的観点からの寿命
耐震性・管理状態の良さなどから、物理的には100年以上住み続けられるマンションもあるとは考えられます。しかし、物理的に問題が無くても経済的観点から取り壊しになる実例も数多くございます。
例えば、関東大震災からの復興を目指して東京や横浜に16ヶ所建てられた同潤会アパートのうち、最後まで残った鉄筋コンクリート造の建物「上野下(うえのした)アパート」が、2013年5月、84年の歴史に幕を閉じました。旧耐震基準とはいえ、これよりも前に取り壊しや建て替えになった同潤会アパートも60年~70年ほどは現役で使われていました。また2016年には、日本初の分譲マンションだった渋谷の「宮益坂ビルディング」も65年の寿命をまっとうしました。
このようにまだ耐えられるにも関わらず、近辺の再開発や区画整理などによる周辺整備などが理由で取り壊されてしまう建物もあります。これはつまり、経済的な寿命といえるでしょう。こればかりは政治経済の動きに影響されるので予測するのは難しいですが、購入を検討しているエリアでどんな再開発が行われようとしているのか、もしくは既に開発されているエリアなのか、などを見極めていくと良いでしょう。
法律で定められた耐用年数とは?
マンションに限らず建築物には「法定耐用年数」が定められています。
法定耐用年数とは、毎年減価償却をしていき「償却がゼロになるのにかかる年数」のことを指しています。減価償却がゼロになる時は、つまりその建物の価値がゼロになる時なのです。
国税庁作成「主な減価償却資産の耐用年数(建物・建物附属設備)」より抜粋して作成
マンション(鉄筋コンクリート造の建物)の法定耐用年数は、1998年の税制改正によって47年と定められています。耐用年数を超えると何か性能が落ちるわけではなく、耐用年数=寿命ではないので実際には何の影響もございません。
ただし、住宅ローンを組む際は注意が必要です。住宅ローン借入期間は基本的に最長35年間(満80歳まで)とされていますが、審査上は、耐用年数と築年数の差分で借入期間が設定されます。築年数の古いマンションを購入する場合、借りる方の年齢にかかわらず借入期間が短くなることがあります。金融機関によって多少変わってきますが、借入期間が短くなるということは月々の支払いが増えることになるので、この辺りも頭に入れておくと良いでしょう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
このようにマンションの寿命は、建物の耐震性、管理状態、近隣の経済性などに基づき変化していきます。2015年には横浜市内にある新耐震基準のマンションが、地盤沈下により傾いてしまった事件もありましたが、一概に「新しい建物だから安心」と胸をなでおろすことが出来ない実情もあるのです。残念ながら、建物一つ一つの状況が違うので「マンションの寿命は〇年!」と定義することは出来ません。
ただ一つ言えるのは「古くなったら価値が減る」という減価償却ありきの考え方に凝り固まってはいけない、ということです。特に管理面においては、管理会社だけでなく「管理費・修繕積立金を滞りなく支払う」「ルールに則った使用を心がける」など、居住者の努力も必須なのです。
上野下アパートや宮益坂ビルディングのように、居住者や周囲の住民に愛され続け、また空室が出来ても定期的にリフォームやリノベーションを繰り返して「住み継がれる」マンションを生み出すことが、マンションの寿命を長くする大きなポイントになるのではないでしょうか。